「幼い頃、蒼慶様は突然、深夜に起きてわたくしを呼ぶ事がございました。ひどく怖い夢だったようで、一度起きてしまうと、夜が明けるまで決してお休みにはなられませんでした」
「確かに、あの頃は、夜が明けるのが待ち遠しかったな」

 独り言のように呟いて、蒼慶が再び腕時計を見やった。

 不機嫌そうな表情をした美貌の兄と、表情筋に問題がありそうな真顔の屈強執事が、時間が来るまでまだ待ちそうだという会話を始める。それを聞きながら、雪弥は扉に向かうと、正面から改めて観察してみた。

 幼い子供が悪夢を見るような材料になりうるだろうか、と想像力を働かせるものの、すぐに集中力がそれて、遺跡みたいだなぁと思ってしまう。

 すっかり風化し薄れている彫刻デザインを、暇を潰すようにぼんやりと眺めていると、どこかで見覚えがある気もしてきた。恐らくは、遺跡のようだというイメージが、そう錯覚させるのだろう。