そういえば、と『開封の儀』について聞かされた話を思い返し、雪弥は「あ」と声を上げた。

「零時になったら、扉が開く仕組みでしたっけ?」
「そういう風に仕掛けてあるらしい。つまり、もうしばらくは『待ち』だ」

 そう答え、蒼慶が脇の壁に寄りかかって腕を組んだ。

 雪弥は、そんな兄の様子をちらりと盗み見た。先程、副当主の件を面と向かって頼まれたものの、まだ答えを返していない。兄さんやっぱり僕は――そう発言しようとした時、後ろにいた宵月が灯かりを揺らした。

「わたくしは、ここまで来るのは初めてです。このようになっていたのですね」
「悪夢に見るのも、おかしくはないだろう?」

 声を掛けられた蒼慶が、顔を歪めるようにして冷笑する。宵月が「そうですね」と相槌を打つように答えてから、雪弥へと目を向けた。

「実は、蒼慶様は最近だけでなく、幼い頃にも何度か旦那様とこちらに足を運んだようなのです。そのためか、当時ひどく夢見が悪かった時期がありまして」
「兄さんって、そんなに怖がりでもなかった気がするけれど」

 雪弥は、不思議に思って兄を見た。むっつりと黙りこんだ蒼慶が、詳細は言いたくない、とでも伝えるかのようにして視線をそらす中、宵月が言葉を続ける。