長い階段の終わりにあったのは、先に見かけた岩がはめられただけの物とは違い、しっかりと扉の形に加工され、文様を施された古い時代を思わせる扉だった。

 明かりに照らされたそれは、埃や苔で本来の色も分からないほどに風化し朽ちていた。彫られている文様も所々が欠けてしまっており、いくつかの円と線が引かれている以外、それが元はどんな模様だったのかさえ定かではなくなっている。

 辺りには年代を感じさせる匂いが立ちこめており、四方のいびつな壁にも、ひどい風化が窺えた。触れてみると冷たく湿っている。

 雨水が滴っている所は見られなかったが、壁にも地面にも水の気配を覚えながら、雪弥は手を離して、扉へと歩み寄った兄を見やった。

「随分と古い時代を感じますね」
「蒼緋蔵家が、ここを拠点として、本格的に屋敷を構え始めた頃からの物らしいからな」

 蒼慶が石の扉の、彫られた部分をそっとなぞりながら、睨みつけるように目を細める。すぐに触れるのをやめると、腕時計を確認して「だいぶ歩いたが、予想していたよりも早く着いたな。まだ時間がある」と口の中に言葉を落とした。