「副当主という『役職』は、一般的に本家の長男以下の男子が務めるものであったらしい。ただ蒼緋蔵の本家は、子が男児と女児一つずつの場合がほとんどで、該当者のない代もあった事から、分家出身者から副当主を採用する場合も少なからずあったとか」
「少なからずあったという事は、もしかして副当主がいなかった代もあったんですか?」
「現に、今の代では『副当主』の『役職』は空席だぞ」

 そんな事もチェックしていないのか、とジロリと睨まれて、雪弥はぎこちなく視線をそらしながら言い訳を考えた。

「いや、その……だって、普通に蒼緋蔵グループの公開されている名簿の中に、代表取締役の次席の名前もあるじゃないですか。彼が実質的に、現在の蒼緋蔵家のナンバー2なんでしょう? 昔、何度かこの家で、父さんを訪ねているのを見かけましたよ」

「彼は会社側の副社長というだけで、副当主ではない。そもそも、他の大家や名家とは異なり、戦争があった時代、蒼緋蔵家の副当主は『一族の戦力部隊の隊長』として存在していた。――そして、本家の男子であるその部隊長は『蒼緋蔵家の番犬』と呼ばれた」