「アレですよ。兄さんが曜日も関係なしに、スーツとかで仕事しているのと同じです」
「きちんと休日はございます。あれは社交です」

 裏表もない呑気な口調から、週末の様子について言っているのだろうと察して、宵月が横顔を向けたままぴしゃりと言った。ベンツの前に立つと、彼を振り返り言葉を続ける。

「蒼慶様専用のお車ですので、傷つけないようお願い致します」
「…………なんでわざわざ、兄さんしか使っていない専用車を寄越すんですか」

 他に何台も車があっただろう、と言いたくなった。何故なら蒼慶は、基本的に他者にプライベート空間を入られる事や、自分の物をどうこうされるのを嫌っているからだ。客人を乗せる車など、用向き別に揃えていた。

 先にそんな言葉を言われてしまったら、更なる逃走を謀るわけにもいかず、雪弥は素直にベンツへと乗り込んだ。滑るように走り出した車内で、半ば諦め笑みを浮かべ、車窓からゆっくりと流れて行く風景を眺める。