「まぁ、ちょっと僕もあまり事情は分からないんですけど、まるで蒼緋蔵家に関わるキーワードみたいに『番犬』と、口にしていた人がいたものですから」

 雪弥は、詳細をぼかしつつ答えた。追求される前に「それで、どうなんですか?」と、続けて回答を催促する。

「実際のところ、蒼緋蔵家(ウチ)と『番犬』というキーワードには、関わりがあったりするんですか?」

 すると、蒼慶が探るように顰め面を強めた。けれど、思案顔で「――まぁ、今のうちに少し話しておくか」と独り言のように言ってから、言葉を続けた。

「蒼緋蔵家は、馬に乗って戦場を駆けた武人としても知られている一族だ。お前も知っての通り、本家の男子には『蒼』、女子には『緋』の文字が与えられる」
「僕の場合は、母さんが父さんに相談して、わざと『蒼』の字は入れなかったとは聞いてます」
「紗奈恵さんは、元々『蒼』の字を入れたがらなかったそうだ。権利関係以上に、彼女の中で何かしら強い理由があったようだが、それについては語ってもらえなかったみたいでな。父上はそれでも、どうにか説得しようとはしたらしい」

 愛する二番目の我が子にも、自分の名にも入っている『蒼』の字を与えたい。まるで兄弟の中でたった一人だけ、子供として認められていないみたいにも感じて悲しいじゃないか、と。