「燕龍家は、一族全員に守護龍がついていると云われ、生まれつき鱗型の痣があるともいう話もある。今でも『守獣』という言葉が使われており、それは当主直属のボディーガードにあたる『役職』の、副当主補佐を示す言葉だ」

 雪弥は、ふと、夜蜘羅が口にしていた『番犬』というキーワードを思い出した。
 蒼慶の話からすると、それぞれ一族内で独特の立ち位置や、役職といったものがあるようだ。そうであるとしたら、蒼緋蔵家内でも独自に使われている言葉があって、それも何かしらの役職を示すものであったりするのだろうか?

「ウチで、『番犬』という言葉が使われている何かがあったりしますか?」

 雪弥は、そう考えながら尋ねてみた。蒼慶の肩がぴくりと揺れて、その足が止まる。

「『番犬』……?」

 同じように立ち止まった宵月の明かりが、小さく振れて、三人分の影が狭い空間に大きく揺らいだ。

 唐突に静かになってしまったのが不思議で、雪弥は動かなくなった背中に向かって「兄さん?」と声を掛けた。すると、蒼慶が再び階段を下り始めながら「どこでソレを聞いた?」と、チラリと肩越しに目を向けて確認してくる。