すると、蒼慶がこちらを振り返らずに「いいや」と言って、首を僅かに横に振った。

「地下は、巨大遺跡のようなものだ。蒼緋蔵家に残されている文献にも、記録が残されていない『先』が、いくつも存在するくらいの規模を持った迷路みたいなものであるらしい。古い時代の仕掛けについては、こちらで完全に把握出来てもいないようでな」

「ああ、そういえば原始的な仕掛けって、意外と今の殺傷能力に勝る速度と、どんぴしゃに死角を狙ってくる物も多いですよね。エジプトの遺跡で、追っている賊の首か飛んで、面倒だからウチの部隊を外で待機させて僕が追っ――あ。いや、なんでもないです」

 つい思い返して口にしてしまった雪弥は、仕事での体験だったと気付いて口をつぐんだ。蒼慶が、途端にむつつりとした表情を浮かべて、前を見つめたまま「お前の『仕事内容』くらい知っている」と愚痴り、何を今更と呟く。

 なんとなく察せられているだろうな、とはずっと思っていた。けれど今だって、互いの口から明確な名称や単語は出していない。そのちょっと不思議な気もする状況を考えていたら、宵月が「それで?」となんでもないように尋ねてきた。