しばらく螺旋状に下ると、階段は途中から真っ直ぐになった。足場の段差は高低差が大きく石も不揃いで、技術的な観点から、途中までの階段の建築年月とは隔たりもあるようだと考えていたら、最後尾から宵月が「滑りますのでご注意を」と言った。

 その数秒後、最後尾から革靴の底を滑らせたような音が上がって、階段内で光が大きくぶれて先頭の蒼慶が足を止めた。まさかと思いつつも、雪弥も心底呆れてそちらを振り返ってみると、蒼緋蔵家一の優秀な執事が、涼しい顔で服の埃を払っている。

「…………あの、兄さん。僕は何かしら、奴にツッコミを入れた方がいいのでしょうか」
「放っておけ。奴の場合、本気か冗談なのか分からんところがある」

 この中では一番体重が重いしな、と蒼慶が興味もなさそうに、もっとも推測される可能性を口にして、再び足を動かしながらこう続けた。

「ここから先は、蒼緋蔵家でも僅かな人間しか知らない場所だ。父上には、中に入ったら決して明かりの灯らない場所へは進むな、と忠告されている。『道導のように並ぶ明かりの先に本が置かれているが、その目的を終わらせたら、真っ直ぐ戻るように』と強く言われた」
「本当に閉じ込められちゃうとか?」

 背後で、宵月が「わたくしは筋肉が重いのです」と、淡々とした調子で弁明する声を聞き流して、雪弥はぱっと浮かんだ可能性を尋ねてみた。