それは、一見すると岩の壁だったが、古い遺跡の原始的な仕掛け扉に見られるような物にも似ていた。うっすらと確認出来る重なった部分からは、埃臭い湿った空気が流れてきている。

「そもそも、侵入者はどうしてココまで辿りつけたんですかね? 当主継承前の儀式でしか、ロックが解除されないって事は、父さんと、そして教えられた兄さんしか知らないわけでしょう?」
「この場所は、一昔前は、儀式的な行事や集まりを取り行う神聖な場であったらしい。蒼緋蔵家の一部の人間は知っており、他の名家の一握りも、行き方までは知らないにしろ存在は把握している」
「じゃあ、どこからか情報が漏れたと?」
「あるいは、故意に漏らされたか」

 含むような言い方をした蒼慶が、右足で地面を探るような仕草をした。何かが踏み込まれるような音が上がった直後、重々しい音をたてながら、岩の壁がゆっくりと横にずれていった。

 長い間人の出入りがなかったとでも言わんばかりに、年月を積み重ねた湿気と黴独特の空気が、途端にこちらへと流れ込んできた。宵月が中を照らし出すと、ここよりもさらに狭い岩の階段が、円を書くようにして下に続いているのが見えた。