兄の専属執事である宵月は、白髪が目立った剛髪をピシリと後ろへ撫でつけ、執事服に蝶ネクタイまで決まっていた。覚えが確かであれば、六十代ではあるはずなのだが、やはり背筋はピンと伸びて若々しい。

 鋭い眼差しに感情は浮かんでおらず、相変わらず愛想のない無表情だった。高い背丈は日本人の平均を超えており、今もなお衰えない様子で胸板も厚く、執事らしく丁寧に揃えられた手の指もしっかりしている。

「本日はお休みなのでは?」

 畑作業に入った男に別れを告げた雪弥を、黒塗りのベンツへと案内しながら、宵月が自身よりも背丈の低い彼をチラリと見やって言う。

「まぁ、休みではありますけど、癖みたいなものですかね。これといって私服を着る機会も、あまりないですから」
「そういえば、昔から制服かスーツ姿でしたね」

 宵月が、思い出すようにして視線を正面に戻す。スーツ姿がしっくりくる事について考えていた雪弥は、説得力のあるたとえに思い至って「宵月さん」と呼んだ。