雪弥は。後ろにいる宵月にも促されてそこへと足を踏み入れた。全員が移動してすぐ、蒼慶が左手を伸ばして壁を探ると、三人の立っているコンクリートが重々しく震えながら下に沈み始めた。

 目の前に見えていた階段が、視界の上へと押しやられていき、とうとう入口が完全に見えなくなった。何かが固定されるような小さな音と共に、そこは密室と化してしまう。

 恐らくは、階段部分の壁が元に戻ったのかもしれない。雪弥はそう推測しながら、宵月が持っている明かりだけで照らし出された、四方をコンクリートの壁に囲まれた空間を見渡した。通電のないカラクリ仕掛けとはいえ、下降が長らく続いているのが不思議だった。

「随分と深いみたいですね。屋敷の地下部屋の、更に下の方にも地下空間があるんですか?」
「大昔の地下洞窟だったそうだ。その上に蒼緋蔵家が本家を構え、それを利用して『現在の地下遺跡』が造られた、と父上は言っていた」

 不意にコンクリートではなく、扉のようにおしはめられた白い岩石が目の前に現れたところで、下降が止まった。まるで引っ掻かれたような無数の傷が入っており、それを睨みつける蒼慶の横顔を見て、雪弥はこれが侵入者にやられた『扉』であるらしいと察した。