午後九時を過ぎた。蒼緋蔵邸は、ひっそりと静まり返っている。
建物内は消灯されていて薄暗く、ぼんやりとした月明かりが窓から差し込んでいた。蒼慶は中央階段を上がると、書斎室とは逆の方へと進んでいく。
いくつもの部屋の前や廊下を過ぎて、行き止まりに突き当たると右手に折れ、今度は幅の狭い階段を下り始める。その階段は電灯が設けられておらず、古い屋敷の匂いがこびりついており、ランプの形をした電灯を持った宵月が、進む先を後ろから照らし出した。
「こんな階段があったんですね」
暗闇だろうと視認出来る雪弥は、照らし出されていない階段下を、前を歩いて下っていく兄の背中越しに覗きこみながら口にした。
「なんだか、ここだけ昔のままみたいだ」
「ここは従業員用だ。そのまま行くと、一階の裏扉に抜けるようになっている。だが、私達はそこへは行かない」
蒼慶が言いながら、前触れもなく立ち止まった。すっかり色の褪せた木目色の壁を振り返ると、そこで膝を折って階段の段差辺りを探る。
建物内は消灯されていて薄暗く、ぼんやりとした月明かりが窓から差し込んでいた。蒼慶は中央階段を上がると、書斎室とは逆の方へと進んでいく。
いくつもの部屋の前や廊下を過ぎて、行き止まりに突き当たると右手に折れ、今度は幅の狭い階段を下り始める。その階段は電灯が設けられておらず、古い屋敷の匂いがこびりついており、ランプの形をした電灯を持った宵月が、進む先を後ろから照らし出した。
「こんな階段があったんですね」
暗闇だろうと視認出来る雪弥は、照らし出されていない階段下を、前を歩いて下っていく兄の背中越しに覗きこみながら口にした。
「なんだか、ここだけ昔のままみたいだ」
「ここは従業員用だ。そのまま行くと、一階の裏扉に抜けるようになっている。だが、私達はそこへは行かない」
蒼慶が言いながら、前触れもなく立ち止まった。すっかり色の褪せた木目色の壁を振り返ると、そこで膝を折って階段の段差辺りを探る。