そもそも話し合う余地はないんじゃ、と雪弥は困ったように口にした。しかし、蒼慶が「どうなんだ」と腕を組んで見下ろしてきたので、降参するように両手を軽く上げて見せた。

「勿論分かってますよ。僕だって『殺生はできるだけ避けたいと思っていますから』ね」

 そう答えたら、蒼慶が眉間の皺を浅くして、視線をやや落とした。

「…………お前は、いつも阿呆なくらいに呑気だ」
「まぁ、のんびりとは言われますけど、ここにきてなんで阿呆なんですか?」
「私だったら、避けられない殺生に関しては覚悟を決める」
「突然なんですか。物騒だなぁ兄さんは」

 雪弥は、ちょっと笑って見せた。どうしてか、視線を返してこちらを見つめてきた蒼慶が、ふっと苦笑を浮かべた。相変わらずの仏頂面ではあったものの、眼差しはどこか想い遣りが滲んで悲しげにも見えた。

 けれど兄は、すぐに表情を戻して踵を返して歩き出してしまう。多分気のせいなのかなと思って、雪弥は宵月と共にその後に続いた。