「隠し扉は、蒼緋蔵邸の東側にある。緋菜達がいるのは西側だ。恐らく『例の本』や、次期当主である私をさし置いて、先に彼女達を手にかける事はないだろう、とは推測している」
「そうでしょうね。これだけ殺しに自信があるのなら、わざわざ人質を取ったりといった面倒な事もしないでしょうし。そもそも、僕が相手の立場だったとしたら、そうする」

 雪弥は、つらつらと考えながらキッパリと答えた。その『開封の儀』とやらで、兄に危険が迫るとしたのなら、本家の敷地内(テリトリー)に侵入した敵にヤられる前に、こちらが先に殺すだけだ。

 すると、蒼慶が少し強い声で「雪弥」と呼んできた。

 久しぶりに、アレだとかコレだとか以外、はじめて名を呼ばれたような気がして、雪弥は緊張感も抜けてしまい「へ?」と振り返った。

「相手に話す余地があった場合については、覚えているな?」
「出来るだけ物騒を避ける形で話し合う、とかいうやつでしょう? あの写真がどこの組織か機関経由かは知りませんけど、現場の感じを見る限り、そうは思えないんですけど……だって、兄さんの推測だと、その犯人が侵入者と同一人物って事なんでしょ?」