それからしばらく、誰も何も言わない時間が続いた。雪弥は、壁に掛かっている大時計を眺めながら、時間が経つのが遅い事をぼんやりと考えていた。


 空になった蒼慶の珈琲カップを、宵月がさげて、代わりに冷水の入ったグラスを一つ置いた。長い間秒針の音に耳を澄ましていた雪弥は、自分達の間の後ろに彼が待機し直す気配を見届けたところで、楽に腰かけたまま兄へと声を投げた。

「兄さん、書斎室に戻ったりしないんですか?」
「書斎室には用がない」

 腕を組んで思案顔をテーブルへと向けていた蒼慶が、顰め面でそう答える。戻れとも動けとも許可されていない雪弥は、これからどう出るつもりなのだろうかと思いつつも、きっとそれを考えているんだろうなぁと推測して「なるほど」とだけ相槌を返した。

 窓がガラスの向こうには、夜空が広がっていた。広大な屋敷の周囲には街灯かりがないせいか、ここからだと星がとても綺麗に見える事が思い出された。

「……そういえば、泊まった時、よく三人で寝転がって眺めていたっけ」

 幼い頃の風景が脳裏に浮かんで、つい、ぽつりと口の中で呟いた。発案者は緋菜で、消灯後に彼女に引っ張られて、兄と共にこっそり屋敷を抜け出した。そして、彼女を間に挟んで星空観賞をしたのだ。