「容赦のない顔面フキン、とても良いと思います」
「やめろよ、そういう『この無礼者ッ』みたいな対応を僕に求めるなよ……。というか、あんたドMでもない癖に、なんで厳しい対応を好むんですか」
「わたくし、こう見えて組み敷く側ですが。ですので、普段味わえない対応を『忠実なる犬』として受けるのが新せ――」
「それ以上言わせるかッ、そして顔を近づけるな!」

 雪弥は続いて、兄の方にあったフキンを投げつけた。

 蒼慶がそれを見て「あ」と声を上げるそばで、宵月がひらりとかわした。その後ろを歩いていた若い男性給仕の頭に、フキンが直撃して「うわっ」と小さな悲鳴が上がる。

「ですので、雪弥様は胃薬が必要なのですよ」
「そこで話を戻さないでくださいよ、何度も言いますけど普通ですから。――というか、あの、そこの人、当ててしまってすみませんでした」

 自分と兄の席の間に立つ宵月の向こうを覗きこんで、雪弥は謝った。しかし、奴がすっと身体を移動してきて遮られてしまい、ピキリと青筋を立てて、その執事のいかつい無表情を見上げる。