「雪弥様、胃薬をお持ちいたしました」

 どこから取ってきたのか、一旦足早にそばを離れた宵月が、手に薬瓶を持って戻り恭しく差し出してきた。

 それを見た瞬間、雪弥は丸めたフキンを彼に投げ放っていた。それが顔面に当たるのを見届けた蒼慶が、「馬鹿か、お前も何をしているんだ」と眉を顰める。この時ばかりは兄と共感出来た彼は、舌打ちを一つして「宵月さん」と低い声で言った。

「いなくなっているなと思ったら、胃薬かよ」

 力加減がされたフキンを、しばし顔面に乗せていた宵月が、薬瓶を差し出すように二人の間に突き出したまま沈黙した。フキンがずるり、とゆっくり下に落ちると、ようやく無表情な顔が現れたところで口を開く。

「これはもう、病気だと思いましたので」
「真顔でなんて事いうんだよ。僕のどこが変だと言うんですか?」
「ですから、胃袋ですよ、雪弥様」
「僕の胃袋は普通だ」

 雪弥は、すかさず二回目のフキンを放っていた。まるで女性のような反応のそれを、避けもせず近くから喰らった宵月が、薬瓶を掲げて見せたままこう続ける。