そんな二人の様子を無視して、蒼慶が「桃宮の件だったな」と思い出すように、先程あった質問に答える。

「そんなの簡単な事だ。何しろ、来る前にプロフィールをチェックするからな、趣味くらい知っていて当然だろう。――それに、訪問の予定を聞かされてからずっと、私としては少し気になっている事もある」
「気になっていること? それは、なんというか珍しいですね」

 事前に訪問のある人間の調査書に目を通し、個人情報を頭に叩き込んだうえで面会する、という流れも、突っ込みたいところではあったが、社交界ではまぁまぁある事だとはぼんやり知っている。

 雪弥としては、普段は迷いもせず思考をさくっと終える兄が、今回はどちらともつかない様子で、思案する表情を見せているのが物珍しくもあった。ここ数年は電話越しだったから、そう強く感じてしまっているだけだろうか?

 けれど、その疑問を本人に問い掛ける時間はなかった。