蒼緋蔵当主(わたし)ではなく、何故生まれて間もない、我が息子の執事にして欲しいというのか?』
『一目見て、是非この方にお仕えしたいと思った。わたくしの一生すらも捧げる覚悟である』

 その初コンタクトがあった際、尋ね返した父は「ふざけるな」というニュアンスで電話を切ったらしい。軍でも高い地位にいる彼が、自ら使用人になるなど想像出来ず、何かしらの悪戯か、ちょっとした気の迷いであると判断した。

 しかし、宵月は諦めなかった。二年間しつこく電話で希望を伝え続けたうえ、この手段ではダメかとようやく悟ると、面と向かってお願いすべく、なんと軍用ヘリコプターで蒼緋蔵家を訪れたらしい。

 その際、幼い蒼慶が分家の心を掴んだ、とあるエピソードが生まれている。当時五歳だった彼は、現われた宵月の前に立つと、当主がはらはらしながら見守る前で、顔を顰めて堂々とこう言い返したという。

『俺に仕えたいというのか。しかし生憎、優秀な軍人くらいの【普通の執事】に用ない。俺が求めているのは、絶対に裏切らない忠実で【完璧な執事】だ。突然やってこられても迷惑極まりない。礼儀も作法も知らぬ貴様では、話しにならん』