「扉に仕掛けられた施錠が外れるのは、午前零時だ。その時に、私達は当主である父上しか知らない、蒼緋蔵家の秘密の一つ踏み込む事になるわけだが――」

 母の亜希子に素直に従う事にした蒼慶が、仕方なくといった様子で立ち上がったところで、顰め面でこちらを振り返る。

「その前に、一つ訊いておきたい」

 続けて腰を上げた矢先、真っ直ぐ目を向けられた雪弥は「何?」と返した。

「お前は殺すと言ったが、もし、それが『普段からお前が対峙しているような類ではない一般の者』だとしたら? 意思の疎通も出来、こちらに害がないとしても、そうするのか」
「へ? えぇっと、それなら多分、そのまま捕えて話を聞き出すかな。兄さんが知りたがっている事を、聞けるかもしれないし……?」

 思ってもみなかった問い掛けだったので、スムーズな返答が出来なかった。彼が一体どんなところまで把握していて、何をどう知りたがっているのかは分からないが、恐らく指示されるだろう可能性をそのまま口にした。