こんな事を言ったら、また兄さんに怒られるかもしれないけれど。でも深く考えるのは苦手なんだ。やはり自分は、指示を受けて現場に立つのが性に合うらしい……そう続けて、雪弥はつい苦笑を浮かべた。

 殺気が一転して、柔和な雰囲気に戻る。本能的に僅かに身構えてしまった宵月が、悟られないうちに身体の強張りを解いて、指示を仰ぐように主人へと目を向けた。

 蒼慶は、しばらく黙っていた。弟の下手くそで、ぎこちない愛想笑いを見つめてから「――そうか」と、眉間の皺も刻まずに独り言のように呟いた。その結論に達するのが『自然な事ではない』とは、指摘しなかった。


「争点になっている『開封の儀』だが――」


 膝の上で手を組み合わせた蒼慶が、そう冷静な様子で淡々と切り出した時、コンコンと強めに扉が叩かれる音がした。

 一同は、揃って口をつぐんだ。宵月が横目をチラリと向けながら「予定よりもお早いですな」と呟くと、誰が来たのか察した蒼慶が、深い溜息を吐いて前髪を後ろへと撫でつける。