「…………僕は蒼緋蔵や、他の名家の事もよくは知らない。ただ兄さんのために、僕が出来る事をするだけだから」

 名家だとか歴史だとか、先代の蒼緋蔵家当主の言い残した言葉にも、強く惹かれるような興味は湧いてこなかった。ただ、蒼慶達が無事でいてくれればいいと思う。

 蒼緋蔵家に害をなそうとしている者が、彼が語ったような特殊な性質を持って生まれた暗殺者であったとしても。たとえ、それが先日出会った『腕が六本の異形のモノ』みたいな生物であっても。

 どちらだって構わないのだ。どうであるにせよ、家族を傷つける『敵』であるのなら、『消してしまえば』いい。難しく考える事はない。殺してしまえば終わる。

 その結論に達した雪弥は、なんだ簡単な事じゃないかと思って安堵し、穏やかな表情を浮かべて蒼慶を見つめ返していた。髪や肌にアンバランスな深く濃い黒の双眼が、優しげな微笑みに対して冷気をまとい、青い光りを灯す。

「大丈夫。何者だろうと、兄さんの邪魔はさせない。どんな者であっても、生きていれば殺すだけだよ」