「お爺様は、忌まわしい歴史の『終わり』が始まるのなら、と一族に言葉を残して息を引き取ったが、そもそも私は、その『始まり』も知らない。それでいて、これからその終わりが始まるというのも、おかしなものだ」

 蒼慶は、悲しい何を振り返るかのように、思い耽る目をそっと細めて黙りこんだ。
 場の沈黙を見守っていた宵月が、つい集中力が切れたようにして、窓へぼんやりと視線を向けた雪弥を見やった。それから、既に誰も注目していないテーブルの本を閉じると、主人の蒼慶へと目を向けて確認する。

「お時間がかかりそうであれば、珈琲でもお持ちしましょうか?」
「必要ない」

 蒼慶が眉間に皺を刻んだまま、視線を返さずに答えた。その長い足を組み替え、背を預けるようにしてソファに身を預ける。

 その音を聞きながら、雪弥は「よく分からないなぁ」と、もう一度口にしていた。聞いた話について考えてみるものの、思い返そうとすると頭が痛くなり、彼は難しい問題への深い思考を放り投げる事にした。