「当時、特殊筋と呼ばれた不特定多数の一族によって、領土の奪い合いがなされていたという記録については、私が調べられた名家のもとには共通して残されている。ほとんどが『戦争の記録』で、そちらに関しては、ほぼ事実だろうと私は踏んでいる。――その光景を、地獄絵図と題して描いた男の画がある」

 そう告げた蒼慶が、顎を少しくいっと上げて指示する。その視線を受け取った宵月が、棚に用意していたらしい一冊の本を取って、テーブルの上に該当するページを広げて置いた。

 雪弥は、それを覗きこんだところで眉を寄せた。気のせいかな、と一度目を擦り、それでも確認せずにいられず蒼慶へと目を戻した。

「……兄さん、これ、どこかの教科書とか本で、見かけた覚えがあるんだけど」
「当時の絵の特徴、または画家の紹介などで、チラリと載ってもいる。これがその全貌画だ」

 その本のページいっぱいに印刷されていたのは、古い日本画だった。地獄を描いた創作絵画のように見え、中央では鼠のような顔をした男がいて、眉を寄せた虚ろな垂れ目で、こちらを恨めしそうに睨みつけている。