男がトラクターの後ろから、これから始める仕事の道具を取り出し始めた。そこで、ふと別の疑問を感じたような表情を浮かべて、自分の畑を眺めるようにして斜面に腰かけている雪弥を振り返る。
「そういえば、車も連れてないお客さんなんて初めてだな。一体どうやってここまで来たんだい?」
これは予想外の質問だ。
バスも通ってないのに、と不思議そうに続ける彼を前に、雪弥はまたしてもゆっくりと視線をそらしていた。自分がこうして座るまでの事を思い返して、どうにか言い訳を考えつつ口にする。
「えぇっと、僕も車だったんですよ。途中で、その、新鮮な空気が無性に恋しくなって、飛び出してしまったというか……」
総本部の建物を出た後、言われていた新幹線に乗った。けれど、到着した駅に黒塗りのベンツが待ち構えていて、運転席から出てきた『迎え人』を見た瞬間、雪弥は反射的に逃げ出して、その脇を一目散に駆け抜けてしまったのである。
「そういえば、車も連れてないお客さんなんて初めてだな。一体どうやってここまで来たんだい?」
これは予想外の質問だ。
バスも通ってないのに、と不思議そうに続ける彼を前に、雪弥はまたしてもゆっくりと視線をそらしていた。自分がこうして座るまでの事を思い返して、どうにか言い訳を考えつつ口にする。
「えぇっと、僕も車だったんですよ。途中で、その、新鮮な空気が無性に恋しくなって、飛び出してしまったというか……」
総本部の建物を出た後、言われていた新幹線に乗った。けれど、到着した駅に黒塗りのベンツが待ち構えていて、運転席から出てきた『迎え人』を見た瞬間、雪弥は反射的に逃げ出して、その脇を一目散に駆け抜けてしまったのである。