その光景を静かに眺めつつも耳を澄ませると、どこからか緋菜の笑い声が聞こえてきた。聞き慣れた妹の声は、久しぶりに聞くようにも思える嬉しさと、喜びに弾ける昔の無垢さがあった。

 蒼慶は、目を閉じてもっと耳を澄ませた。頬に当たる風が、ひどく柔らかい。外で広げられている光景が、耳を通じて彼の瞼の裏にありありと想像出来た。

 妹の緋菜が「お母様の馬は、とても優しい気性だから大丈夫よ」と可笑しそうに言っている。そのそばで、柔らかな声色を持った弟の雪弥が答える。

「だから、なんで僕を連れてきたの。僕は、ちょっとその辺を歩いてこようと思っていたわけで――わぁッ」

 短い叫び声がして、馬の嘶きが上がった。母の「蒼緋蔵家の男子が馬に乗れないなんて」と、普段以上に元気がある豪快な笑い声が上がった後、またしても、電話越しではない透き通るような心地の良い雪弥の声が聞こえてきた。

「いやいやいや、この馬どう見ても気性が荒いとかしか思えない。というか、僕のこと嫌ってますよね? ほら、すっげぇ鼻息荒く地面を蹴っ……うわぁ!?」