そう返された中年男は、上等なスーツで座り込む彼をじっと見て「そうかい……?」と、よく分からないように頭をかいた。トラクターを少しばかり進めて、畑の脇でエンジンを切ると、そこから降りてから雪弥に声を投げかける。

「兄ちゃん、この辺じゃあ見掛けない顔だね。外から来たのかい?」
「まぁ、そんなところです」

 雪弥は、ぼんやりと答え返した。麦わら帽子をかぶり直した彼は、気にした様子もなく一度背伸びをすると、ふと気付いたような顔を彼へと戻した。

「俺達は蒼緋蔵家っていうところに、先祖代々からお世話になっているんだが、あんたもそこへ行くのかい? だいたい、あんたみたいに綺麗にめかしこんだ連中が、よくそこの当主様に会いに行くのを、何度か見かけた事があるよ」
「…………まぁ、そんなところです」

 ピンポイントで当てられた雪弥は、視線をそらしてぎこちなく頬をかいた。正直、行きたくないなぁ、とまたしても思った。