「ふん、私は事実を述べたまでだ」
『数年前、突然連絡を取って来たのは、そっちだろうに……。我々は情報を交換し合う事を前提に、一部協力関係にあるというのであって、本来なら国家の組織としては、個人に応える事は出来な――』
「その台詞は聞き飽きた。まだあれから何も――ッ……何も進んではいない」

 話しを遮った蒼慶は、感情的に続けそうになった自分に気付くと、荒上げそうになった声を途中で意識的に抑えた。

 その苛立つ感情の経緯に思い至ったのか、電話の向こうでナンバー1は言葉を切った。しばし考えた後、子供を諭すように『あのな、蒼慶』と吐息混じりに言葉を切り出す。

『珍しく冷静でいられない部分があるようだが、ひとまずは落ち着け。焦りは時に判断を誤らせる』
「私は十分に落ち着いている。こんなにも必要としている情報だけが手に届かない事に、腹が立っているだけだ」
『まぁ、気持ちは分からんでもないが、だから今回、そちらの希望通りナンバー――おっほん! 雪弥を送っただろう』

 ナンバー1は、咳払いで誤魔化して言い直した。畜生、やりにくい相手だ、とつい口の中で小さく呟いてしまう。彼の前で、普段のように雪弥をコードネームで呼ぼうものなら、すっかり機嫌を損ねるのは目に見えていた。