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 屋敷本館へと足を進めた蒼慶は、急くような足音を大理石に響かせた。

 そのまま廊下と階段を突き進み、自身の書斎に足を踏み入れると乱暴に扉を閉める。胸ポケットから携帯電話を取り出しながら、開いていた窓を片手で荒々しく閉めてから「おい」と、電話の向こうに苛々した声で言った。

「一体、お前達は何をやっている? 国家の機密機関だとは思えんほどに無能だな。もっと早く確認の連絡を寄越せなかったのか? おかげで、中途半端にスケジュールが崩れた」
『おいおい。開口一番で、マシンガントーク級の愚痴をぶつけてくるなよ……。うちのエージェントはどれも優秀で、私だって忙しい身なんだぞ』

 電話の向こうから聞こえてきた、腹に響くような太く低い声の人物は、特殊機関のトップであるナンバー1だ。彼は『弟と違いすぎて、ホント扱いにくいし、嫌味ったらしいところが実に嫌だ……』と小さく愚痴る。

 蒼慶は、その文句が聞こえていたにもかかわらず、そちらに関しては機嫌を損ねなかった。兄弟であるという部分の指摘で、若干眉間の皺と共に怒気を薄めてこう続ける。