それでも、命は大事なんだ。無駄に散らせてしまってはいけない。それは、とても大切な事だから。

 雪弥は、昔から何度も、自分の中で繰り返してきた言葉を思い浮かべた。母が何度も言い聞かせてきて、すっかり覚えてしまうまで唇に刻みさせたその言葉を、胸の内側でもう一度唱える。


 知っているよ。だから大丈夫だ。

 僕は、『命が大事であることを、知っている』。

 
「ねぇお兄様」

 ふと声を掛けられて、雪弥は思案をやめると、緋菜へと目を向けて「何?」と訊き返した。

「お兄様、大丈夫? ここまで長旅だったみたいだし、もしかして少し疲れちゃった?」
「大丈夫だよ、ありがとう。少し考え事をしていただけなんだ」

 その時、アリスが思い出した様子でこう言った。

「そういえば私も、物語の女の子ように、ぱったりと眠ってしまう事があるの。日中もよくうとうとしてしまって、よく眠ってばかりいるから自分の記憶も時々変な感じがするのも多くて。成長期だからよと言われたのだけれど、緋菜様もあった?」