桃宮は目を合わせないまま「そう、ですよね。『ただの童話』……」と、まるで自分に言い聞かせるように、けれどどこか疑うかのようなニュアンスで呟いた。それから、まだ話し続けている緋菜達の方へ、そろりと目を向ける。

 雪弥は、その視線に気づかない振りをした。ちょうど怖くない方の童話を教え終わった緋菜に、アリスが感想するように口を開いた。

「桜の木は、家を守るために植えられたもので、女の子は夜だけその精霊さんになるのね……夜は祈りを捧げるから、一人なのかしら? 誰もそばにいないのは少し寂しいけれど、でも、太陽の下では植物にも愛されるのは、素敵ね」
「そうねぇ。小さな植物に言葉を掛けて、蝶や鳥とも話が出来る女の子のお話だったから、私も初めて聞いた時は、素敵だなぁと思ったの。夜になると、女の子の人格の方は眠ってしまうらしいのだけれど、いつも太陽の下の夢を見ているのだとか」
「じゃあ、寂しくはないのね。それなら、良かった。だって『夜は眠っていれば怖くない』ものね」

 アリスはそう言って、幼い笑顔を見せた。緋菜も笑みを返しながら、別の話題を切り出し始める。