「蒼慶お兄様ったら、私を怖がらせようとして、その童話を怖くアレンジしたみたいなの。隙あらば何度も、怖いうたい文句を繰り返すんだから! もうすっかり耳にこびりついちゃったわ。『夜、彼女は桜の香りに時を止め、人としての生を失う。だから植物は、陽の下で人である彼女を愛し、夜の彼女を恐れた』」
怖い余韻を思い出したのか、語り口調を真似るよう言った緋菜が、非難するように雪弥を見て「雪弥お兄様」と、むっつりとした表情で続けた。
「私、たった一人で聞かされたんだからね。一緒に暮らしていたら、きっと怖い思いも半分で済んだと思うのだけれどッ」
「そんなこと言われてもなあ……」
そもそも、たまに泊っていたタイミングでそれがあったとしても、一緒に寝てやるわけにもいかないとは思うけれど……と、雪弥は当時の環境を思い返した。
幼かったとはいえ、令嬢である緋菜が異性と長らく二人きりにならないよう、当時の使用人達も目を光らせていた覚えがある。彼女のベッドは確かに大きかったけれど、だから恐らく兄と自分が、一緒に就寝してやるのは無理だと思うのだ。
怖い余韻を思い出したのか、語り口調を真似るよう言った緋菜が、非難するように雪弥を見て「雪弥お兄様」と、むっつりとした表情で続けた。
「私、たった一人で聞かされたんだからね。一緒に暮らしていたら、きっと怖い思いも半分で済んだと思うのだけれどッ」
「そんなこと言われてもなあ……」
そもそも、たまに泊っていたタイミングでそれがあったとしても、一緒に寝てやるわけにもいかないとは思うけれど……と、雪弥は当時の環境を思い返した。
幼かったとはいえ、令嬢である緋菜が異性と長らく二人きりにならないよう、当時の使用人達も目を光らせていた覚えがある。彼女のベッドは確かに大きかったけれど、だから恐らく兄と自分が、一緒に就寝してやるのは無理だと思うのだ。