「アリスちゃんに、花の名前を教えていたの」

 言葉を掛けるタイミングを失っていると、緋菜が気を利かせて先に話しを切り出した。
 雪弥は「そうなんだ」と苦笑を浮かべつつ、再びアリスへ目を向けた。落ち着きなく恥じらっている様子は、華奢な見た目やレースのついた可愛らしい衣装のせいでもあるのか、十三歳にしては心身共に幼い印象が強い。

 思わずじっと目に留めていたら、緋菜が「お兄様、見過ぎよ」と注意してきた。

「余計に緊張させちゃうじゃない」
「え。ああ、ごめん」

 条件反射のように謝ってしまったものの、なんで緊張しているのだろうか、と雪弥は疑問だった。ちょっと尋ね返そうとしたのだが、何かしら憶測したらしい緋菜が、口を開く方が早かった。

「アリスちゃんが美少女だから、見ちゃうのは分かるわよ。まるでお人形さんみたいで、昔よりも綺麗になっていたから、私もびっくりしちゃったのよねぇ」
「は? あの、それ違――」
「ほんと、アリスちゃん綺麗になったわよね。まるで絵本の中から出てきた精霊みたいだったから、蒼慶お兄様から聞いた童話を思い出しちゃったのよ」

 こちらの訂正の言葉にも気付かず、緋菜がアリスへと目を向けながらそう続けた。彼女が興味を覚えた様子で、腕にぎゅっとしがみついた状態で視線を返す。