昔から妹を大事にして、面倒見がいいともろもあるからなぁ。そう思って見守っていた雪弥は、ふっと亜希子の顔がこちらへと向いて、反射的に身を強張らせてしまった。彼女が先程と打って変わった笑みを浮かべると、にっこりと笑って爽やかに声を掛けてくる。

「雪弥君も、二人を宜しくお願いね。蒼慶が暴走しそうになったら、絞め技かけるか足を踏んでも構わないから」
「……それ、今もやってるんですか? というか、僕が兄さんにそんなこと出来るわけがな――」
「いいわ、私が許可するから」

 に~っこりと、亜希子が有無を言わせない満面の笑顔を浮かべた。

 雪弥は、蒼慶からギロリと睨みつけられる視線を感じた。頼むから両側から『笑顔』と『威圧する睨み顔』で、同じ空気感の脅しをかけないで欲しいなぁと思いながら「えっと、その……分かりました」と答えて、曖昧に頷いて見せた。


 亜希子達が去ってすぐ、蒼慶がこう命令する声が聞こえた。

「行け」

 庭園の向こうへと歩き進み、小さくなっていく亜希子達を見送っていた雪弥は、ちょっと怪訝そうに兄を見やった。他にも異変が起こっていないか、屋敷外の様子を改めて見てきても構わない、という事らしいと察しつつも尋ね返す。