「あの人、急に仕事が増えたみたいで、最近はずっと忙しい時間を過ごしているんですよ。その延長で、今日も急にスケジュールが埋まってしまったみたい」
「あの方とお話をされたいと思っている方は、大勢いらっしゃいますもの、仕方ありませんわ。早朝一番に出なければいけませんので、ゆっくりお話出来るのも今夜くらいなものでしたが、またの機会を楽しみにしておりますわ」

 あまり無理をなさらなければいいのですけれど、と紗江子が同年代の当主を想いながら、蒼慶にも向けてそう言った。亜希子が年上の夫を浮かべて「同感ですわ」と、頬に手をあてて小さく吐息をこぼした。

 雪弥は、そんな紗江子ぼんやりと眺めていた。おっとりとした口調で、のんびりと話す彼女を見ていると、やはり亡くなった母の事が思い出された。身体の細さも違っているのに、仕草も話し方も、まるで母の紗奈恵にそっくりに思えてくる。

 その時、蒼慶が「母上」と亜樹子に声を掛けた。