雪弥は、それを想像したくなかった。ここへ来てしばらく、自分は存在していません、と言わんばかりに斜面に座りこんでじっとしている。

 何度目かの鳥の飛翔を見届けた後、スーツの内側のポケットに入れている携帯電話を取り出して、現在の時刻を確認した。そこに付いているストラップ人形の『白豆』が、ひょうきんな表情を浮かべて揺れた。

「…………お前は、楽しそうでいいよなぁ」

 雪弥は、つい携帯電話を目の高さまで持ち上げて、前回の仕事で『飼う事になった』白豆を見つめ返した。キーホルダーにしては丸くて幅があるため、内側のポケットに入れる際には、脇の方によけてしまわないといけなかった。

 とはいえ、胸元に付ける武器収納用のホルダーに比べれば、対した大きさはない。細身であるため、元々スーツの内側のスペースだって余っているのだ。

 雪弥は『飼い主として』、白豆が潰れて窮屈になってしまわないよう、位置を調整しながら携帯電話を再びしまった。ふと、総本部の建物から出る際、一階で遭遇したナンバー1に問われ、白豆の清潔で元気な姿を見せてやったのを思い出した。