そう思案しつつ視線をそらした雪弥は、ふと、庭園の通路脇に設けられたベンチに腰かけている紗江子と目が合った。すぐに微笑みを返されて、戸惑う。つい、自然と笑顔が作れないせいで片頬が引き攣ってしまった。

「あの子、昔からあんな笑い方なんですよ。困ったみたいな、ぎこちない感じの」

 こちらを見た亜希子が、そう言って「誰に似たのかしらねぇ」と小首を傾げる。

「たまに腹の底から、笑わせてみたくなったりもしますわ」
「きっと優しい子なのでしょう。私の夫も、ずっとそうですもの。ね、あなた?」

 こちらまで聞こえるような声で促された桃宮勝昭が、「そうかなぁ」と疲れ切った目元を細めると、困ったようにして笑った。向かいの椅子に腰かけていた蒼慶が、腕を組んだまま一同を軽く見渡して、椅子の背にもたれかかる。

 婦人方は気にした様子もなく、お互いの顔を見合ってお喋りを再開した。その上品な笑い声を聞きながら、雪弥は蒼慶の方へと視線を戻した。