荒事になるというのなら身は引かない。雪弥は、冷やかな流し目をよそへと向けながら、そう思った。カラーコンタクトで黒く塗り潰された瞳孔が、僅かに淡い紺碧の光を帯びる。

 その様子を、じっと見ていた宵月が、ふっと視線をそらして「さて」と空気を変えるように言った。

「蒼慶様から、雪弥様への指示を頂いております。一つは、庭園に降りてきて少しは、お客様のお相手をする事。もう一つは、あとで話があるとの事です」
「えぇぇ、僕に桃宮さんとの話しに加われと……?」

 兄からの指示を聞いた雪弥は、露骨に嫌そうな表情を浮かべた。自分は口下手であると自負しているし、蒼緋蔵家の大事な客人と何を話せばいいのか分からない。しかも、出会い頭に迷惑をかけていたので、余計に口も重くなってしまう。

「兄さんだけで十分でしょうに」
「放っておいて、屋根にでも行かれたら大変危険です。蒼慶様も、そうお考えです」
「屋根に登る予定はないのですが。というか、それくらい別に危険な事でもないですよ。あれくらいの高さから落ちたって、怪我なんてしませんし」
「普通は死にます」

 宵月はぴしゃりと言うと、外の庭園へ案内するために踵を返した。ふと、思い出したように足を止めて、自身の後に渋々続く雪弥を振り返る。