そう疑問を覚えた時、ガラス扉を閉め直して、宵月がこちらを見た。

「先程、蒼慶様が本日の午前零時にしか開かない隠し扉に、こじあけようとした跡がある事を確認致しました。わたくしの方で、ざっと会議場や各部屋、書庫や各金庫のあたりも足を運んで確認してみたのですが、今のところ内部で『異常』が見られたのは、そこだけです」
「なんだ、既に屋内もチェックしたんですか?」

 それなら先に言ってくれてもいいのに、と雪弥は唇を尖らせた。昔からこの執事は、主人である兄に許可されていなければ口を閉ざしているという忠実なところもあって、説明手順や言い回しが面倒なところもあるのだ。

「つまりその本というのは、兄さんが真っ先に確認しに行ったくらい、知ってる人間にとっては日頃から略奪者が現われる価値がある物なんですかね? 当主交代の際の短い期間しか表に出されないというし、たとえば遺跡の宝みたいな」
「場合によっては、殺生を犯してでも構わないという者がいるくらいには、価値があるでしょう。遠い昔、同じような風習を持つ一族が、その儀式の日に滅んだ事もあったといわれています」

 かなり大袈裟で物騒な話だ、と雪弥は思った。たった一冊の本や、一族の歴史の記録の一端で、戦乱時代には名家同士の抗争などがあったというわけだろうか。