「兄さんの事だから、恐らくは今回の件に関して、他にも何か掴んでいる事があるんでしょう? ほほ推測を絞り込んで、何かしら既に考えている事もある」

 違いますか? と、雪弥は吐息混じりに問いかけてみた。すると、宵月が澄ました表情で「はい」と返してきて、こう続けた。

「お察しの通り、蒼慶様にはお考えがあります。そして、先に伝えておくようにと指示を頂きましたので、お伝え致します。どうやら侵入者は、蒼緋蔵邸で今日『開封の儀』が行われる事を知っていて、それを狙っている可能性がある――と、蒼慶様はおっしゃっておりました」
「『開封の儀』?」
「蒼緋蔵には、三大大家となってから今に至るまでの『役職』が、全て記録されている本が存在しているようなのです。次期当主は、正式に就任予定が承認された後、継承の日取りが決まるまでの間に、まずはそれを受け継ぐのがしきたりのようでして」

 蒼緋蔵家には、代々の当主にしか継承されていない情報や物が、いくつか存在している。そのうちの一つが、代替わりする次の『役職』の記録を記すためにも必要なその本だ。