特殊機関の総本部から出発して、二時間ほど経った午前十時十分。

 雪弥の姿は、とある大自然に囲まれた田園風景のド真ん中にあった。信号機すらない細く続く一本道の脇の斜面に腰を降ろし、曲げた膝を軽く抱き寄せた姿勢で、ほどよく伸び上がった野菜畑と、その向こうに広がる緑の山々を眺めている。

 土と水と緑の匂いに交じって、動物小屋の匂いが微かにした。そよ風が優しく吹き抜けていて、日差しは柔らかくて心地よい。かなり穏やかな環境下である。

「ここって、こんなにも時代が遅れたような土地だっけ……」

 雪弥は、マンションやビルばかりの大都会から遠く離れた、この土地を思ってぼんやり口にした。今は後の事を考えたくない、と緑の風景を目に留めながら現実逃避する。
 敷地の半分以上が緑に覆われたこの土地の奥地に、正確に言えば今いる一本道を進んだ先の森の中に、広大な土地を抱えるようにして蒼緋蔵邸がある。ここから見えるあの山も、畑も、田舎の外観を失わない細い道も全て彼らの所有地だ。