女性陣の声がする方向から、離れているだろうとは推測していた。そちらへと目を向けてみると、亜希子達の姿は大庭園へと進んで池の方にあった。背の低い木も植えられている場所だから、彼女達の視力ではココまでは視認出来ないだろう。

 今のところ、誰の目もこちらには向いていないようだ。そう判断した雪弥は、ポケットに手を入れると、何食わぬ顔でこっそり塀の上を歩き出した。

 蒼緋蔵邸の天辺まで行く事も出来るが、大跳躍といった派手な動きはあまりしない方がいいだろう。そう自分なりに考えて、まるで地面の上を歩いて散歩するような足取りで、静かに塀の先まで歩いた。

 そこで一度立ち止まり、六メートル先にある小さなテラスの出っ張りを見つめた。ポケットに手を入れたまま、革靴の先を二度ほど軽く塀に打ちつける間に距離を目測し、力加減を調整して「よいしょ」と、気が抜けそうな声を一つ上げて跳んだ。


 不意に強い視線を感じて、雪弥は宙を移動する刹那、下を見やった。

 そこには、目を見開いてこちらを見つめている宵月と、わなわなと怒りの数値を上げている蒼慶の姿があった。パチリと目が合って「あ、やばい」と思った直後には、向かい側の小さなテラスの塀へと着地していた。