そういえば、制御を誤り『被検体』を暴走させて、違法研究施設にいた者達が全員死亡した一件もあった。その国のエージェントと、各国の特殊機関が協力して対応にあたり、自分はその哀れな標的達を殺したのだ。

「相手が人間であれ、そうじゃないにしろ、生きているのなら殺します」

 雪弥は、己が感じたままの素直な結論を口にした。
 どうしてか、今日の新聞で見た夜蜘羅という男が、前回の仕事中にけしかけてきた異形の暗殺者が脳裏に浮かんだ。今更ながら、まるで人間と蜘蛛を掛け合わせたようだったなと思う。

「たとえ『肉体的に死んでいる』としても、殺しにかかってくるようなモノであれば、動かなくなるまで壊してしまえばいい。すべての四肢をもぎ取って、切り刻んで、その頭と心臓を潰して。――僕は、ずっとそうしてきました。相手が何者であるかなんて、結局は些細な事なんです」

 視線をそらして考えていた雪弥は、冷静にそう答えていた。

 その横顔を見ていた宵月が、「そうですか」と同じように落ち着いた様子で普段の相槌を打った。そして彼は歩きながら、さりげなく胸ポケットへと手を伸ばして、そこに入れてある携帯電話の、『蒼慶』と表示された通話ボタンを切った。