「そろそろ戻りましょうか。予定していた昼食時間に間に合わなくなります」
「得体の知れない侵入者か暗殺者がいるかもしれないのに、呑気に昼食というのも、変な感じだなぁ」

 共に本館へと向かいながら、雪弥は小さく肩をすくめた。案内するように少し先を歩く宵月が、昼食の件を聞き流して「監視カメラをくぐり抜けて、塀を超えて一時的に外で身を隠している可能性もあります」と、自身の推測を口にする。

「それこそ、考えられない可能性ではありますが。実際、道具も無しに一つ飛びで、我が蒼緋蔵邸の塀を飛び越えてしまうお方も、おられますからね」
「それ、ピンポイントで僕の事を言っていますよね、宵月さん?」

 しれっと答えてきた無表情な横顔に目を向けると、元軍人であるその執事が「目立っておりました」と、こちらを見てキッパリと言った。

「わたくしも軍人時代には、テロリストや組織の人間や暗殺者と、戦場や町中や私室などでやり合った経験は、多々ありますが」