地面と壁と木々を足場に、次々に跳躍して、広大な敷地の塀をぐるりと一周してみた。しかし、やはり視覚や嗅覚にピンとくるものはない。

「毒物を持っているとしたら、匂いで分かるんだけどなぁ」

 高い塀の上に着地した雪弥は、そこから屋敷の本館や別館などの屋根を眺めながら首を捻った。開発された薬物や科学兵器を利用して、あのような奇妙な殺害の方法が取られた可能性も視野に入れていたのだが、その推測は外れなのだろうか。

 思ったよりも早く回れてしまったので、先程の現場へと足を向けてみた。死骸の異臭が少し残されているだけで、仔馬は既に片づけられてしまっていた。

 結局は異変や新しい発見もないまま、どうしたものかと歩いて桜の木々を抜けた先で、雪弥は宵月と鉢合わせした。目が合ってすぐ「何かございましたか」と尋ねられたので、首を横に振って見せる。

「僕の方は、これといって何も見つけられませんでした」
「そうでしたか。わたくしの方も同じです」

 そこで宵月は、腕時計に目を留めた。