足早に進んだせいか、第二庭園の中央に設置された噴水にいきあたって、雪弥はそこで我に返って足を止めた。ここからだと、蒼緋蔵邸の本館がよく見える事を思い出して、ふっと目を向けた。

 不意に、そこに見慣れた悲惨な死の現場を重ねてしまった。


 血だらけの亜希子や緋菜が横たわり、使用人達の血で、美しい蒼緋蔵邸がどこもかしこも真っ赤に染め上げられる。宵月や蒼慶の死体が並び、そして、そこには父である当主の死体も――


 考えて、思わずゾッとした。これまで仕事では何も感じた事はなかったのに、蒼緋蔵家のそんな現場を思うだけで、喉元まで嫌悪感がせり上がった。

 嫌なイメージを振り払おうと、急くように歩き出して、俯き加減に庭園を突き進む。けれど、どこからともなく沸き上がる想像は止まってくれない。嫌だ、という気持ちは強烈な吐き気を込み上げさせて、雪弥は前触れもなく足を止めていた。
 
 彼らが死んでしまうことになったら、と考えた瞬間に『殺してやる』という強い想いに支配された。

 思考回路が、殺人衝動で真っ赤に染まる。暴れ出したい衝動が、神経回路を走り抜けて膨れ上がった。一人でも傷つけてみろ、関係者もろとも皆殺しにしてやる……。

 ふと、自分の中に残っていた冷静な思考が、僅かに戻って小さな違和感を覚えた。意識があっさり『殺人』へ向いている事が、人としてどうなのかと思って、何かが変だという違和感がある顔に触れたところで、自分の表情を確認して硬直した。

 僕、笑っているのか。

 カラーコンタクトがされた黒い瞳の奥で、開いた瞳孔に蒼い光が灯った。どうして、という疑問は『蒼緋蔵家の人間が殺されてしまう前に、近づいてくる危険分子すべて皆殺しにしてしまえばいい』という想いに塗り潰された。