というか、塀をむやみに壊すなんてしませんよ、と雪弥は困ったように呟いた。一体どういう状況で、こちらからだいぶ距離がある高さ数メートルの塀まで行き、打ち砕くというのだろうか。温厚な弟に対して、ひどい言いようだと思った。

 考えている事が表情に出ている彼を、宵月が横目に見やった。けれど何も指摘しないまま、当主不在の間ここの全てを任されている蒼慶に、執事らしく次の予定を確認したのだった。

           ◆◆◆

 一旦、蒼慶と廊下で別れた雪弥は、宵月と共に屋敷の外へと出た。外には平和としか思えない日差しが降り注いでおり、強い光に一瞬、目が眩んだ。

「わたくしは、裏の方を見てまいります」

 玄関前で、宵月がそう告げて西側へと歩いていった。それを少し見送ったところで、雪弥は冷静を装っていた表情を解いた。

 背を向けて、そのまま北側と足を進めた。ペガサスの像が建つ噴水横を通過し、正面広場から抜けられる第二庭園へと入り、ただ奥へと足を動かしながら思案に耽った。

 最後に宵月が言った言葉が、耳にこびりついていた。

 カメラやセキュリティーは、命まで守ってはくれない。確かにその通りだと思った。真っ先に頭に浮かんだのは、この目で見てきた暗殺された人間の殺人現場だった。