蒼緋蔵のように大きな財力と権力を有した一族や、社会的に高い地位にある場合、誘拐や暗殺などの危険性が少なからずある事は、雪弥も仕事がら理解している。けれど、よく知っているからこその疑問もあった。

「もし雇われの暗殺者がいたとして、普通は証拠になるような異変は残さないんですけどね。動物を使って殺し方を試す事はありますけど、その死骸も隠すと思うんだけどなぁ……」
「わたくしどもは、何かしらのメッセージではないかと勘ぐっているのです」
「挑発的な感じのな」

 宵月の意見に対して、蒼慶が間髪入れずに言うと、忌々しげに舌打ちする表情を浮かべた。美麗ながら元々愛想を感じさせない顔なので、凶悪な表情をされると、犯罪者も震えんばかりの怒気をまとう。

 昔から思っていたけど、兄さんって、嫌だと思った事を隠さない人だよなぁ……。

 雪弥は幼い頃、彼が亜希子によく足を踏まれて『教育指導』されていた事を思い出した。兄にそんな事が出来るのは、彼女くらいなものだった。まさか二十八歳になる今でも、それが続いているとは思わないけれど。