階段の上で、蒼慶と宵月の小さな声を聞きながら、身体を休めるように姿勢を楽にして、まだ明かりの灯っていないシャンデリアを見上げた。

 思えば、こうやって蒼緋蔵家の中でゆっくり寛いで座っているなんて、変な感じだった。数日前の仕事の最中、第三者として蒼慶や父と電話で話していたのが、随分前の事のように思えてくる。

「…………僕がここにいるなんて、違和感しかないなぁ」

 つい、ぼんやり口の中で呟いた。

 まるで戦乱時代の名残のように、高い塀に囲まれた蒼緋蔵邸の敷地。目の届くところには、滅多に顔を合わせる事もなかった蒼慶や宵月がいて、少し歩けば会える距離に亜希子と緋菜もいて、遅くには父も帰って来る『家』に、今、自分はいるのだ。

 なんだか変な感じだなぁ、と思う。父、母、兄、妹が揃う大きな家の中に、こうして自分がいる事に違和感があった。


 雪弥はしばらく、階段の中腹に腰を下ろして待っていた。数分ほどで「おい、貴様も来い」と蒼慶に呼ばれて、仕方なく立ち上がって階段を上がった。